オンラインぽっぽ焼き 

(著者)せとやまゆう

 医師がアプリケーションを開いて、患者のデバイスに接続。
「こんにちは。はじめまして」
「こんにちは。よろしくお願いします」
 声が聞こえるけれど、画面には誰も映っていない。ぽっぽ焼きだけが、宙に浮いている。
「あれ、お姿が見えないですね。画面の前に、来ていただけますか」
「実は、昨日の朝から透明人間になってしまいまして・・・」
 ぽっぽ焼きはゆっくり降下し、平皿の上へ。
「はあ、そうでしたか・・・。失礼しました。私はこういう者です」
 医師は医師資格証を提示した。患者は健康保険被保険者証を提示した。
「会社には電話して、体調不良ということで休みをもらっています。このまま透明人間のままだと、車にひかれたり、人にぶつかられたりするでしょう。怖くて外に出られません。家にいても、すぐに家族とぶつかってしまいます。どうか、元に戻してください」
「しかし、私は専門ではないんですよね・・・」
 医師は顎に手を当てて、しばらく考えた。

「フィクションの世界では、透明人間がいたずらをしようとする。すると、元の姿に戻ってしまう。これは、よくあるパターンですよね」
「はい」
「あなたは透明人間になってから、何かいたずらを考えましたか?」
「いいえ、そんな余裕ありませんでした」
「では、試しに考えてみましょうか」
 医師は、左手の人差し指を立てた。
「えっ、でもどんな?」
「そうですね・・・。《小学生男子が考えそうなこと》なんて、どうでしょう」
「ああ、なるほど。はいはい」

「想像できましたか?」
「はい」
「おっ、だんだん輪郭が見えてきましたよ。おお、もうお顔がはっきり見えます」
「本当ですか?」
 患者は画面からフレームアウトした。どうやら、姿見がある位置へ移動したようだ。
「おお、本当だ。戻っている!」
「よかったですね。はっはっは。また、症状が現れることも考えられます。近いうちに、対面で受診されることをお勧めします。お大事になさってください」
 医師は胸を撫でおろした。
「はい、わかりました。ありがとうございました!」
「ちなみに・・・。どんなことを想像したんですか?」
「えっと、それは秘密です。はっはっは」