(著者)竹之内まつ子
バスから降りた停留所は八木前。少し先
に有名な八木ヶ鼻の勇姿がみえる。
私たちは高校に入って初めての夏休みに
クラスのみんなでキャンプファイヤーをし
ようということになった。目的地は下田の
小学校が閉校した跡地、校舎を宿泊施設と
して利用できる山荘だ。
東三条駅からバスに揺られること40分。
五十嵐川沿いをバスはくねくね曲がりなが
ら走っていく。1日に数本しかない路線バ
スには他の乗客の方も多く乗っていた。
迷惑にならないように、小さな声で
おしゃべりをしたりしている子もいたけど、
私は話に入らず耳を傾けながら外の景色を
眺めていた。川沿いの道は山の緑も濃く
流れる川もゆるやかでほっとする風景だ。
バスから降りたら徒歩で山荘へと向かう。
「ねぇ」
と、長野さん。彼女はラジカセを持参して
いた。
「一緒に歌おうよ!」
彼女はアニメ好きで、アニメの曲のカセット
テープをかけてくれた。私も含めてアニメ好
きの子たちが合唱を始める。
しばらく雨の降らない砂利道はほこりっぽ
かった。歌声に負けんばかりにセミの鳴き声
も四方八方から降り注ぐ。
「暑いなぁ~まだ~」
暑さと疲れから誰かが言った。その脇を1台の
セダンが追い越していった。
「あ~松井先生、ずる~い」
それは担任の松井先生だ。
1時間も経っただろうか、汗だくになってやっ
と山荘に着いた。それぞれの部屋に荷物を置い
て山荘の方が用意してくれた夕飯のカレーを頂
いたら、お楽しみのキャンプファイヤー。
初めての体験。パチパチと木のはぜる音に炎
の明りがみんなの顔を照らしている。草むらで
鳴く虫たちの声。
「あ~いいね~」
民家もなく木々の切れ間からは
キラキラした星がよく見える。
いつの間にか、仲のいいグループに分かれて
山の夜を楽しんでいた。
あれから34年。私たちは60才になる。秋には
クラス会が決まっている。別々の道を歩んでき
て、また一緒にすごせる時間。
そう、私たちはあの夏の日に…一緒にすごした
夏の夜にタイムスリップするのだ。