(著者)せとやまゆう
「えっ、彼氏いるの?」
僕はフォークとナイフの動きを止めた。同時に、走り出していた恋心にも、急ブレーキがかかった。やっぱり、そうだよな。こんなにかわいいんだもん。透き通るような白い肌、キラキラした笑顔。でも、連絡先を交換してくれて、食事の誘いもオッケーで。きっと、今だけ彼氏いないのかなと思っていた。ランチの料理は、どれもおいしい。知りたかった佐渡島の観光スポットについても、詳しく教えてもらえた。大佐渡スカイライン、金山遺跡、ドンデン山、たらい舟体験、竜王洞・・・。どれも魅力的なスポット。話が弾んで、冗談を言い合った。楽しいひととき。余計なこと、聞かなきゃよかったな。
「付き合って、どれくらい?」
「半年くらいです」
「僕の知ってる人じゃ、ないよね?」
彼女は黙り込んだ。うわあ、知ってる人なんだ。ということは、職場の人か。
「えっ、誰?」
「それは言えないんです。まだ、秘密にしているから」
「気になるなあ。最後まで教えてよ」
「本当に言えないんです。ごめんなさい・・・」
「じゃあ、教えてくれるまで帰さないよ」
ムキになって、意地悪なことを言ってしまった。彼女は困った顔をした。完全に嫌われたな。もともと、好かれていたわけでもないか・・・。結局、相手が誰なのか教えてもらえなかった。明日から、どう接したらいいのだろう。どこかに、僕の行動に目を光らせている人がいるのだ。とりあえず、気のないフリをしなければ・・・。
それから、長い年月が経過した。今となっては、感謝の気持ちしかない。ありがとう。この一言に尽きる。忙しい中、わざわざ来てくれたのだから。旅行ガイドブックを持って・・・。