(著者)せとやまゆう
新潟にある水族館。今はイルカショーの時間。たくさんの観客で賑わっている。僕の隣には、好きな女の子。イルカがジャンプする。ザッパーン。水しぶきが上がって、涼しい。
「手つながなくて、いいの?」
ジャンプしながら、イルカが話しかけてくる。1人だけに、聞こえる周波数で・・・。黙ったまま、僕は首を縦に振る。
「まだ、付き合ってないパターンか。告白は?」
「今日、しようと思ってる」
僕は、小声で答える。
「今しちゃえば?これから、大回転を決めるから」
高く飛んで、クルクルクルクルクルー。五回転して、ザッパーン。大きな水しぶきが上がる。
「きゃー、すごいね!」
キラキラした女の子の笑顔。せっかく、イルカが背中を押してくれたんだ。僕も男を見せないと・・・。
「好きです。付き合ってください」
真剣な顔で、僕は言った。驚いた表情の女の子。ついに、言ってしまった。僕の鼓動は速くなった。
「はい、お疲れ様でした。ゴーグルを回収しますね」
スタッフの声とともに、周囲の観客が姿を消した。隣に座っていたはずの、女の子も。水槽の中では、イルカが静かに泳いでいる。
「かわいかったでしょう。たくさん話せましたか?」
「はい、ありがとうございました!」
ああ、ドキドキした。ドキドキしたら、お腹が空いてきた。レストランに移動し、僕はわっぱ飯を食べた。薄い塩味のご飯の上に、鮭といくらがたっぷり。追加で、メギスの唐揚げをオーダー。心もお腹も満たされた。
帰りながら、僕はチケットの半券を取り出す。
《開館前 貸し切りイルカショー!》
どうして、こんなチケットを持っていたかというと・・・。幸運なことに、抽選で当たったからだ。余韻に浸っていて、気付いた。半券に書いてある文章。
《もう一度、ご利用いただけます。ぜひ、ペアでお越しください!》
なんて、太っ腹なんだろう・・・。嬉しい、嬉し過ぎる。振り返って、僕はお辞儀をした。また、必ず来ます。
「よしっ!」
勇気を出して、あの子を誘うぞ。