思い出せない名前、別れを告げたあの橋で。

(著者)ramune

 生きていれば癖が付く。
 例えば、朝食にトーストが無いと嫌とか、嘘を吐く時目を逸らしてしまうとか。
 きっと人間、皆癖が付いている。
 それは日本人に留まらず、世界中の人間に共通する事。
 それと同じように、俺は今日もあの橋へ向かう。

「新潟県」

 そう言われて思い付くのはやっぱり「米」。
 その他はたぶん、ほとんどの人が思いつかないと思う。
 知ってる人なら「神社や寺の数が日本一」とか言うだろうか。
 でも、俺は「新潟県」と言われて一番に思い浮かぶのは「万代橋」だ。

 俺がまだ高校生で、輝く青春を走っていた頃。
 どれだけ仲の良い友達や、可愛い彼女が居ても、俺が一緒に帰るのは幼馴染のあいつだった。
 幼稚園から小学校、中学校とずっと一緒に居た幼馴染のあいつ。
 高校は、あいつの方が頭は良かったから別々になったけど毎日二人で帰っていた。
 俺はあいつと高校が別になった事をあまり気にしていない。
 なんせ俺はあいつが嫌いだ。
 だから今でも名前を思い出せずに、俺は幼馴染を「あいつ」と呼ぶ。
 学校帰り、夏なんかよく百円くらいの棒アイスを食べながらダラダラと歩いていたもんだ。
 同じではない学校の、全く知らない教師の愚痴や「授業分かんねーよな」とか言う、
 誰もができるくだらない話。
 その頃はその瞬間が一番楽しかった。

 俺達はその頃まで一回も喧嘩をした事が無かった。
 まず喧嘩のやり方とかいうのが分からなかった。
 俺達は、将来を約束していた。

『必ず新潟に残って、二人でここの魅力を世界に広める』