高木淳(著者)
久々に新潟に帰って来たが、私のいない間に何か街に変わったことはないかと散策してみた。最近は新潟駅や古町付近に新しいビルが建っていることも少なくない。目新しいビルを見つけては、こんなもの有ったかと記憶をたどり、いやなかった。そう断定してまた歩き出す。とにかく私の慣れた町である、ということを自ら再確認するために、更新することが必要であった。周りから見れば何らつまらない散歩である。
古町を抜けて西大畑の辺りに出た。さすがにこの辺りには新しいビルなどは建たないが、料亭や土蔵が並ぶ風情のある静謐という言葉が似合う通りがある。そこに差し掛かろうとしたとき、場にそぐわない激しい機械音がした。眉間にしわを寄せて、その音の方へと向かうと、大きく“工事中”と書かれたオレンジ色の看板と迂回を促す係員が立っていた。この工事中の通りは地獄極楽小路である。狭い道だからアスファルトでも張り替えるのかと覗くと、係員がすぐさま私の前に立ちはだかった。
「駄目じゃないですか。覗いたら。今は改装中なんですから。」
「それもそうですが、道路の工事かなんかですか?」
と係員の背後を覗こうとしながら聞いてみた。
「なにおかしなことを言っているんですか。道路なんかは万全ですよ。今は地獄の改装中なんです。ほら、ここは地獄極楽小路でしょ。向こう側が行形亭とかがある極楽、こちら側がいわゆる地獄です。刑務所があったころからどうにかもってたんですけど、新潟駅の方とかも開発してますでしょ。この際思い切って地獄の方も新しくしようと思いましてね。」
私はこの時話しかける相手を間違えたと思った。
「ここは刑務所があったから地獄なんですよね?改装も何もありませんよ。」
「あら、あなたここの地獄をご存じない?いやはや、新潟にまだそんな人がいたんですね。恐ろしいことだ。」
そう言って係員は私に背を向けて工事現場の方へ歩いて消え去ってしまった。おかしいのは向こう側だとわかっている。だけれど、それから半年ほどたって工事が終わったことを知っていてもなかなか、改装した地獄、に足を踏み入れられないでいる。