大きい公園にて

(著者)せとやまゆう

 新潟の原風景、福島潟。涼しい風が、花の香りを運んでくる。一面に広がる菜の花畑。ベンチに座って、のんびり。ゆっくり時間が流れる。正面には大きな潟湖。カルガモたちが、水に浮かんで遊んでいる。カイツブリは水中に潜って、しばらく上がってこない。葦原のあたりでは、ダイサギが静かに歩いている。そのずっと向こうには、五頭連山が見える。
「いい景色だ」
 右にはキャンプ場。これからのシーズン、にぎわうことだろう。左には鳥獣保護区管理棟。たくさんの渡り鳥がやってきて、越冬するらしい。オオハクチョウ、コハクチョウ、天然記念物のオオヒシクイ。
「見てみたいなあ・・・。また、来ようっと」

 おにぎりを食べて、お茶を飲む。幸せなひととき。犬を連れた、中年男性が通り過ぎる。僕は思いっきり、伸びをした。
「ワンちゃん、かわいい~」
 リラックスしすぎて、大きな声が出てしまった。すると、犬が引き返して、僕のところへ駆け寄って来た。つられて飼い主も。
「おはようございます」
 挨拶から始まり、飼い主は色々なことを教えてくれた。シーズー、女の子、人懐っこい性格。つぶらな瞳で、見つめてくる。かわいい。上目遣いって、こんなに破壊力あるんだ・・・。僕のそばで、犬はくつろぎ始めた。
「すみません、男の人には目がないんですよ」
 申し訳なさそうに、飼い主は言った。これまで、僕は恋愛とは無縁の生活を送ってきた。つまり、モテ期をすべて残している。これから、モテる《第二の人生》が始まったりして・・・。
「よかったら、触ってあげてください」
「えっ、いいんですか?」
「もちろんです。この子も喜びますよ」
 僕は優しく頭を撫でた。フワフワしていて、心地よい感触。このまま、しばらくいてもいいよ。一緒に遊べるから、僕も嬉しい。心の中で、そう思った。

 キュッ、キュッ、キュッ。ポケットの中で、飼い主が音を鳴らした。すると、犬はその方向へ駆けていった。
「どうも、おじゃましました」
「いえ。こちらこそ、ありがとうございました」
 飼い主に抱っこされて、犬は行ってしまった。音が鳴るおもちゃか。手強いライバルだな・・・。