残りもの

(著者)せとやまゆう

 寝ぼけまなこで、大きく伸びをする。目覚ましをかけずに、たっぷり睡眠をとった。
「まだ、間に合うかな・・・。とりあえず、行ってみよう」
 
 顔を洗って、服を着替えて、僕は車に乗り込んだ。しばらく進むと、広い道路へ。窓を開けて、越後平野の風を受ける。空気がおいしい。一面に広がる水田が、青空を映している。目的地は、道の駅にあるおにぎり屋さん。商品が売り切れ次第、閉店してしまう人気店らしい。

 この町に来て、約1年が経過した。初めは、新しい環境に慣れるのに精一杯だった。最近は少し余裕が出てきて、色々な場所に行っている。特に、この町のおいしい物を食べる。それが楽しみ。そんなことを考えていたら、道の駅に到着。平日だから、駐車場が空いている。フードコートに入り、僕は胸を撫で下ろした。
「よかった。まだ開いているようだ」
 
 店頭のメニュー表を見ながら、ワクワク。使われているのは新潟県産のお米。具材の種類も豊富。塩、鮭の焼漬け、辛子明太子、いくら、天然ブリカツ、ねぎチャーシュー、高菜マヨ・・・。
「どれにしようかな」

 そこへ、ロボットの店員がやって来た。
「さっき、売り切れになったんだ。ごめんね」
「あー、やっぱり人気なんだね・・・」
「うん、おかげさまで」
 ロボットは、照れ笑いした。
「いやー、でも食べたかったなあ」
 僕は肩を落とした。
「うーん・・・。ちょっと、待っててね」
 ロボットは厨房に向かい、何やら確認している。しばらくして、戻ってきた。
「あのう、ミニサイズのおにぎりなら、何とか作れそうだよ」
「えっ、そうなの?ぜひ、食べてみたい」
 
 3分ほどで、おにぎりが完成した。
「お待たせ。少しずつ残っていた具材を、全部入れたんだ。海苔も巻いたよ」
「わー、やったー!おいくらですか?」
「お金はいらないよ。試食サイズだからね」
 ロボットは微笑んだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて。作ってくれて、ありがとう」
「今日は来てくれて、ありがとう。また、待ってるね」
 
 木の温もりを感じる、テーブル席に座る。おにぎりを一口。お米の香り、甘みを感じる。そして、口に運ぶたびに違う味。具材の緻密な配列。
「すごい!試食のレベルを超えている」
 おにぎりのおいしさ、ロボットの優しさが心にしみた。嬉しさのあまり振り返ったが、店はもう閉まっていた。
「今度は、もっと早い時間に来ようっと」
 僕は目を閉じて、しばらく余韻に浸っていた。