地球になじんだ頃

(著者)せとやまゆう

 今日は子どもの誕生日。今は夕食の時間。食卓にはのっぺ、しょうゆおこわ、番屋汁、バースデーケーキが並んでいる。子どもはプレゼントのおもちゃを持って、はしゃいでいる。それを見ながら、夫婦は微笑みを浮かべた。家族で過ごす、幸せなひととき。
 
 しょうゆおこわを口に運んだ時だった。急に、父親は思い出した。スパイとして、地球に送り込まれていたことを・・・。慌てて食事を切り上げ、自分の部屋にこもった。その直後、故郷の惑星から連絡がきた。《地球の情報をよこせ》と言っている。そんなことをしたら、地球は侵略されてしまうだろう。大切な妻と子どもを守りたい。惑星からの催促は続いている。何か言わなければ・・・。
「うわー、殺される。助けてくれー!」
 苦しまぎれに、父親は言った。

 その後も、惑星からはスパイが送り込まれたが、みんな連絡が途絶えてしまう。地球は物騒なところだという噂が広まり、侵略計画は中止された。

 スパイには催眠がかけられていた。地球になじんだ頃、任務を思い出すように・・・。しかし、任務を遂行する者は一人もいなかった。