(著者)モグ
これはね、僕がキキと出会って一緒に暮らして、そしてサヨナラをしたお話。
キキと出会ったのは、ママと一緒に歩いていたお買い物からの帰り道だったね。交差点を曲がった瞬間、キキったら急に現れるんだからビックリしちゃったよ。
「やぁ!」
「うわぁ、犬!?」
僕よりも小さくて、なんだか毛みたいに全身がモジャモジャしていて真っ黒で。すごいんだよ、黒いモジャモジャで口も鼻もよくわからいないんだ。わかるのは黄色く光る目だけ。
「どうしてこんなところにワンちゃんがいるのかしら」
ママは不思議そうに言うとキキは怒った。
「犬じゃないよ!僕はヒカリのどうぶつだよ!」
「犬が喋った!」
驚く僕にキキは、犬じゃないんだとすごく怒ったね。
「僕はキキ、ヒカリの国からやってきた。僕のお父さんはヒカリの国の王様なんだ。ヒカってみんなを照らして幸せにできる、お父さんみたいな立派なヒカリのどうぶつになるために僕はここへ修行にきたんだ」
「君はヒカリのどうぶつなの?」
「だから、そうだって言っているじゃないか」
「でも君は身体中が真っ黒でヒカっていないよね」
そう言ったらキキは悲しそうな顔をした。
「僕だってヒカるよ、でも僕は今、お腹が空いて何もできないんだ」
今にも泣き出しそうなキキにママは質問。
「キキのいた国は遠いの?」
「うん、遠いよ。お父さんの魔法でここに来たから、お迎えがくるまで帰れないんだ」
そしてうつむいてしまったキキ。でもそんなキキの頭を撫でてママは言ったよ。
「ねぇキキ。今夜のご飯はカレーなの。たっぷり用意するから、キキがもし良いのなら、一緒に食べましょう」
うん、とキキがうなずいて、僕は嬉しくてジャンプ。
「やったぁ!」
「美味しい!こんな美味しいもの初めて!」
そう言っておかわりをするキキにママは嬉しそう。僕も負けずにお替り。
カレーを食べながらと僕とママはヒカリの国の話をいっぱい聞いたよ。ヒカリの馬車にヒカリの船、ヒカリのお城の話を聞いて僕もヒカリの国に行きたくなっちゃった。キキにはお家のすぐそばの小さな公園の話、ちょっと遠いけれど大きな加茂山公園の話、それから大好きなヨットが沢山並ぶこの街のヨットハーバーの話をした。連れていってとキキは目を輝かせた。行きたいところはこれから少しずつ、全部一緒にいこうと僕は言った。そして僕はママに聞いた。
「ねぇママ、キキの修行の間、キキがここにいてもいい?」
ママは笑顔で言ったよ。
「素敵ね。私も嬉しいわ。でもパパに聞いてみてからね。」
お腹いっぱいになってソファでキキと休んでいる玄関からただいまというパパの声。僕とママが大きな声でおかえりを言うと、キキはドキドキした顔で小さくおかえりと呟いた。
「あれれ、どうしたんだい、この黒い犬は?」
リビングの扉を開けたパパがビックリしながら言うとキキはやっぱり怒った。
「犬じゃないよ!僕はヒカリのどうぶつ、キキだよ」
「すごい!犬が喋った!」
「だから!僕は犬じゃないよ!」
キキは怒っているのにパパは楽しそうだった。
「ねぇパパ、キキと一緒に暮らしてもいい?」
「そりゃすごい。素敵じゃないか。よろしく、キキ」
それを聞いて僕とキキはジャンプ。
「やったぁ!」
それからはね、いつもキキと一緒にいたよ。早起きのキキはママのお手伝い。だんだん上手に綺麗な目玉焼きが作れるようになった。僕が幼稚園から帰ると真っ先に「おかえり」と言ってくれる。それからお家の近くの公園で一緒に遊んだ。「もう帰るよ」と言うママに僕とキキは「まだ帰りたくない」とわがままを言って、2人して怒られたね。
夜には美味しいご飯をたっぷり食べて。パパと一緒に入るお風呂が大好きだったキキはご飯の後、玄関でパパの帰りを待っていた。だからいつもパパが最初に聞く「おかえり」はキキの声だったね。
それからお風呂に入ってパパにを洗ってもらって、お風呂上がりのキキは歯磨きのあと、パパに抱っこされてお布団へ。キキが眠る布団に入るとね、すっごく温かくて僕もポカポカ気持ちよく眠れたんだ。
ある日、万代橋を渡ってキキと僕は河川敷のベンチに座り、信濃川に浮かぶヨットを眺めながらお話をした。楽しくて沢山お話してたのに、キキは段々喋らなくなって「どうしたの?」って聞いた。そうしたらキキは泣きながら言ったね。
「はじめて会った時のこと覚えている?僕はあの時ウソをついたんだ。本当はヒカるけれど今はお腹が空いているからヒカらないって嘘をついたんだ。本当は僕、ヒカることができないんだ。ヒカリのどうぶつなのに僕はお父さんみたいにヒカれないんだ。ウソをついてごめんなさい」
キキは声を出して泣いた。僕は泣いているキキをずっとぎゅって抱きしめた。キキはそのまま泣き疲れ眠って、そんなキキと僕をパパは両手で抱き抱えてお家まで帰った。
キキが泣いた日から一週間が経った夜のこと。もう暗いはずのお外から、リビングにヒカリがさした。ママがビックリして少しカーテンを開けると部屋の中はヒカリに包まれた。それはとても温かいヒカリだったことを覚えているよ。
パパが黙って窓を開けると、それは小さな太陽みたいな、眩しいヒカリが入ってきた。僕もパパもママも、そのヒカリがなんなのかわかった。キキは驚いて黙ってしまっていたけれど、ぼくたちにはすぐにわかったんだよ、キキのパパが来たことを。だって、あんなに明るく、温かいヒカリに包まれたのは初めてだったんだもの。あぁこれがヒカリの国の王様なんだって思ったんだ。
「皆さん、私はキキの父です。キキの迎えに来ました。これまでキキのことをありがとうございました。お礼とともに、キキがここで暮らし始めた時、本来なら私からも挨拶をするべきところ、失礼をおかけしたこと、お詫び申し上げます。」
そんなヒカリの王様の言葉に、僕のママは
「とんでもない。キキが来てくれて私は嬉しかったんです。」
ママの言葉にヒカリの王様は微笑み、キキに話しかけた。
「よくがんばったねキキ、さぁヒカリの国に帰ろう。」
だけどキキは僕にくっついたまま動かない。
「お父さん、ごめんなさい。僕はまだヒカれないんだ。」
キキの目には涙が溢れてきた。でも僕のパパはヒカリの王様に言った。
「ヒカリの王様。キキはヒカることができています。まだカラダはヒカってないけれど、それでも私たちは毎日ここでキキのヒカリに照らされていました。」
ヒカリの王様は微笑みながらなんども頷いてパパとママと僕をゆっくりと見た。それからキキを抱きしめて、キキにそっと話しかけたんだ。
「キキはここでみんなと暮らしてどうだった?」
「ボクはね、すごく幸せだったよ」
「その幸せな暮らしの中にヒカリはあったかな?」
「…うん。でもそれはボクのヒカリじゃなくて、みんなから照らしてもらったヒカリだったんだ。ボクはまだヒカることができていなんだ」
「キキ、君がここでの暮らしの中で感じたそのヒカリは、ヒカリのどうぶつにとって1番大切なことなんだ。いいかい、そのことをこれからもずっと忘れてはいけないよ」
「うん、ボクはずっと忘れない」
「そして、これも大切なこと。キキはここでの暮らしの中でヒカっていた。ちゃんとヒカっていたからお父さんは迎えにきたんだよ。」
「本当に?」
「あぁ本当さ。キキはちゃんと素敵にヒカっていた。」
ヒカリの王様の言葉に、キキの涙が嬉しい気持ちの涙に変わった。パパもママも僕も嬉しい気持ちの涙が溢れた。
それからボクたちはサヨナラをした。サヨナラはやっぱり、悲しい気持ちの涙が止まらなかった。みんなで沢山泣いて、「ありがとう」と「サヨナラ」と「またね」を何度も何度も言葉にしあって、そしてキキはヒカリの国へ帰って行ったんだ。
これで、僕がキキと出会って一緒に暮らして、そしてサヨナラをしたお話は終わり。キキのことを思い出す時にはいつだって、胸の中にね、とても明るく温かいヒカリが溢れてくるよ。それは僕だけじゃなく僕のパパだってママだってそうなんだ。
ねぇキキ、また会えるかな。また会いたいね。また会えるその日まで、僕もキキみたいにヒカれるように頑張っていくよ。