(著者)せとやまゆう
駅前にある、大判焼き屋さん。黒あん、白あん、カスタード、抹茶クリーム、タレカツ、イタリアン・・・。色々な味が楽しめる。生地には、新潟県産の米粉が練り込まれていて、モチモチ。もちろん、全部おいしい。でも、今日はどれも注文しない。この店には、裏メニューがある。
「いつもの、ひとつ」
私は小声でささやく。
「180円」
店主のおばちゃんは、真剣な目をして言う。私は100円玉を2枚、トレーの上に。
「20円のおつりね。さあ、準備はいい?」
そう言いながら、おばちゃんはピンク色の焼き器を用意した。
「はい、お願いします」
「それじゃあ、思い浮かべてみて」
私は目を閉じて、今日の出来事を思い返した。好きな人が、他の子と話している場面。とても、楽しそう。デレデレしちゃって、最低。見たくないけど、気になっちゃう。気になっちゃうけど、見たくない。クシャクシャになって、乱れる心。必死に、興味がないフリをしてた。あー、思い出したらイライラしてきた。頭が熱くなっているのがわかる。
「それっ!」
私の頭上で、おばちゃんが焼き器を振り回した。
「オッケー、つかまえた。焼いちゃうね」
ジューッ・・・。いい音がする。
ゆっくり目を開けると、心が穏やかになった。
「また、いつでもおいで」
おばちゃんは、微笑んだ。
「ありがとうございました!」
そう言って、私は店を出る。おかげで、あの人の前で素直になれる。変な意地を張らずにね・・・。