終わらない街

(著者)山村麻紀

 朝から鼻水が止まらない。目を瞑ると、じんわり涙も出てくる。季節は秋間近のきわめて夏の終わり。花粉症ではない。確か、同じ症状を二年前に経験した。あの日は大好きな、いやちがう。自分の生活の一部のような、これもちがう。自分の相棒のようなラジオが無くなってしまった日だ。朝の「おはようございます」の挨拶は、車内から聴こえてくる女性パーソナリティに。昼までやったるぞとエンジンをかけ始めた午前のティータイムには、爽やかな男性パーソナリティと共にひといき。終業までは穏やかな気持ちで心地のいいサウンドと女性パーソナリティの声に癒され過ごす。夜にかけては、一日頑張った自分にご褒美の極上時間。学生時代から聴き続けるディスクジョッキーと共に帰路に着く。当たり前の、かつ、なくてはならない日常がプツンと終わってしまった。停波した翌日も朝からラジオを流してみたが、ザーッと砂嵐がきこえてくるだけだった。それから数日、鼻水が止まらなかった。
 また、私の一部が消えてしまう。古町で働く私の原点は、やはり古町だ。幼いころ父が働いていた古町のデパートを目指し、週末は母と兄と越後線に揺られた。中学生で父のデパートが倒産し、二十年後に別の老舗デパートが倒産したときにも鼻水が出た。
 そして、仕事帰りに寄っていた小さな書店が閉店する今日ももれなく鼻水が止まらない。会社を休みたい。こんな状態で仕事しても失敗ばかりで客先に迷惑をかけることは間違いありません、と上司に言ったらクビだろうか。私の代わりはいくらでもいる。しかし、あの書店の代わりになる場所はどこにもない。目を瞑ると、涙が出てきた。
 本日は休業。本日は閉店する書店で、自分のために本を買う。愛する街で、消えゆく店と、減りゆく自分を激励するための本を買うのだ。また明日からこの街で戦っていけるように。本日は休業。私も古町も、まだまだ負けられない。
曇り空のさきに、一筋の光明が差す。鼻水をすすって、猛スピードで私は進む。

旅立ちの娘

(著者)四季彩々

「私、東京の大学を受験するから」
 
 娘からそう言われて、動揺する私。
 昔と違って一緒に外食する機会も減ってしまった。久々に二人だけで外食をしたいと言われて連れてきたのだが……。
「私立の大学じゃないよ、国立だから」
 言葉が出ない私は、娘の顔を暫くジッと見つめた。
 日頃から娘に、パパの給料じゃあ私立は無理だと、国立である新潟大学への進学を促してきた。給料が少ないのは事実だが、その発言は本意ではない。実家から通学してくれるのであれば、どこの学校でも良かったのだが……。
「仕送り厳しければ、自分でバイトして稼ぐよ」と言う彼女に、「お金の問題じゃない」と返す。
「ママは知ってるのか?」
「知ってるよ」
「なんて言ってる?」
「勉強頑張りなさいって」
 馬鹿な、と口には出さなかったが、私の顔は曇る。
 新潟市にある「ホテルイタリア軒」。日本で初めてイタリア人が開いたと言われる西洋料理レストラン。それからホテルへと生まれ変わり、その伝統の味は今も受け継がれている。そんなお店を選択する辺り、娘への見栄が少しあった。
 彼女は食後のパフェを口に運ぶ。
 その間、彼女は私に顔を向けることはなかった。

 東京であれがしたい、これもしたいと、パフェに向かいながら、半年後の自分の理想を淡々と私に報告する。
 新潟から東京まで、上越新幹線で約2時間。嫁ぐわけでもあるまいし、と言われればそれまでなのだが、寂しいものは寂しい。私は自分の半身が引き剥がされそうな想いで、彼女の報告を聞いていた。
 無性にワインが飲みたくなったが、ぐっとこらえる。娘は妻と一緒で、お酒を飲む私をあまり好きではなかった。
 この店を出たら一人で飲みに行くか……。

          *

 私は一人寂しく、近くの新潟古町商店街を歩いていた。
 静かなものだ。
 昔は日夜、商店街のモール内路上で、ギターを片手に愛を叫んでいる若者たちが多かった。
 ふと、路上脇で段ボールに座る青年の姿が目に止まった。
 立て札の横で青年は、色紙とペンを握りしめている。

 立て札には、こう書かれていた。
《心のモヤモヤ/言葉のキャッチボール。五百円》

 少し高い気もするが、私は興味本位で彼に近付きお金を渡す。
すると青年はボソボソと「今の気持ちを色紙に一言、二言」とつぶやき、色紙とペンを私に手渡す。受け取った私は少し考えて、
《娘が上京。寂しい。》と色紙の上部に横書きで記載した。
 色紙とペンを青年に返すと、青年は私の書いた文字の下に、すぐさまペンを走らせる。

《微笑ましい想い出。笑顔の種は今日も蒔かれている。》

 ………。
 お世辞にもセンスのある文章とは言えないが、私の胸を何かが打つ。娘が小さかった頃の記憶が脳裏をよぎる。
 オバケ嫌いの娘が夜中に突然怖くなったのか、私の布団に飛び込んできた。
「パパあっち行って」と言いながらも、本当に遠くへ行こうとすると、娘は不安になって駆け寄り、私にギュッとしてきた。
 当時の些細な記憶が、目頭を少し熱くさせた。
 私はペンを受け取り、
《これからの自分。やはり寂しい。》と先ほどの色紙に記載する。
 続けて青年がペンを走らせる。

《想い出は一つじゃない。大切な人も一人じゃない。》

 ………。
 ふと、妻と出会った頃のことを思い出した。
 結婚してからも娘が産まれるまでは、よく二人で外食をしていたし、旅行も頻繁に行っていた気がする。特に当時語り合った内容は覚えていないが、共有した食事や風景は、今思い返しても尊い記憶である。
 ここ何年も二人きりで街を歩いた覚えがない。

《大切な人も一人じゃない。》
 私は、青年にお礼を言い、過去を振り返りながら、ゆっくりと家路に向かった。

           *

 その夜、寝室にて。
 布団に入る私の横で、パタパタと化粧液を付けている妻。
 特にキッカケもなく、「なあ」と呼びかけると「ん」と返事が返ってきた。
「あいつの進学の話、聞いてる?」
「聞いてるよ」と、パタパタする手を止めることなく答える。
「どうかなあ?」
「どうって?」
「受かるかなあ?」
「受かるでしょ、まじめだもん」
「そうか」と私は呟き、少し間を空ける。
 やると決めたらやるのが、うちの娘だ。彼女は自分の夢に向かって、しっかりと歩き続けていくだろう。親元を離れてどこまでも。

 ………。
「あいつの東京行き、笑って見送ってやるか」私は、ぼそりと口にする。
 続けて妻に聞こえないほど小声で「久々に二人で温泉旅行にでも行こうか」と口にする。すると、

「私も東京についていくよ」

 妻からそう言われて、動揺する私。
 彼女は私に顔を向けることはなかった。

空に落ちる人魚

(著者)コバルトブルー

 島に向かうフェリーは、果物の薄皮を?くように海面を滑らかに裂いていく。
 夏休みに入りたての七月下旬。中学三年生にとっては貴重な二日間を、生徒会行事という名目で小旅行に捧げていいことになった。
 船内で、みんなとはしゃぐ大地がこっそりスマホを出すのを見ると、つい最近友達に言われたことを思い出す。
『ヒロちゃんって覚えてる?あの子、大地と付き合ったらしいよ』

 五月。新潟県北部にあるうちの中学校で、他校の生徒との交流学習が行われた。
 相手側は同じ郡に属する村の中学校だが、日本海に浮かぶ、県全体でみたら粟粒のように小さい島にあり、全校生徒は二十人に満たない。
 三年生は男女二人だけで、そのうちの一人がヒロちゃんだった。
「好きなことは海水浴です」
 人懐っこい笑みでそう自己紹介したのを覚えている。
 三日間の滞在ですっかりクラスに馴染んだ彼らは、こっそりスマホでクラスメートの何人かと連絡先を交換しており、交流学習後もやり取りを続けているらしかった。
 
 二か月後、今度はこちらから島を訪れることになった。
 島の中学では学校行事だった交流学習も、少子高齢化の村とはいえ、各学年二クラスあるうちの中学ではそうはいかない。
 なので生徒会書記局の数名と先生二人で行くことになっていた。
 夏休みを利用して行われる島での交流学習の内容は観光やレジャーで、「楽しみにしていたのに何が悲しくてデート気分の同級生を見なきゃいけないんだろう」と思っていたが、意外にもヒロちゃんは大地に近づかなかった。
 それどころかサイクリングの時も乗馬をする時も、ずっと私のそばにいてあれこれ話しかけてくれた。
「遠距離の彼氏がいるのに行かないの?」と聞こうとも思ったが、別に何でもいいか、と私は気にせずにいた。

 夕方、海岸でバーベキューが行われた。
 海を見ながら食事をしていると、隣に座るヒロちゃんが「空に落ちたいな」と呟いた。
「ヒロさんそれよく言いますよね」「どういう意味ですか」と近くに座っていた二年生達が口々に聞いたが、彼女はえへへと笑うだけだった。
 私が「なんか分かるかも」というと、ヒロちゃんは「ほんと?」と目を輝かせた。
「私、空を飛びたいって思う時あるの。うちは山に囲まれた田舎で、どこに行くのも時間かかるから、行きたい場所に真っ直ぐ飛んで行きたいって思う」
 的外れかもしれない。そう思った時、「それな!」と嬉しそうな声が飛んできた。
「私もね、空に落ちて空を泳いで行きたいなって思うの。地上って邪魔なものが多すぎるから」
 泳ぐのが好きと言っていた彼女らしい答えに心が緩む。するとつい本音が漏れた。
「…後は、一人になりたいって意味もあるかな」
「一人?」とヒロちゃんが首をかしげる。二年生達は私の話に興味がないのか、おかわりに行った。
「私スマホ持ってなくてさ」
 ちらりと、離れた席で盛り上がるうちの中学のメンバー達を見る。
「うちのクラス、スマホ持ってる子多くてみんなSNSでやり取りするんだよね。そうするとさ、やっぱどうしても微妙な距離ができちゃって」
 別にハブられてるわけじゃない。ただ、親しいと思ってた人間関係に、さらにもう一段親密度の高い世界があったのだと気づいた時、急に人との間に薄い膜が張った。
 教室の中に沢山の管が張り巡らされていて、いろんな話が飛び交っているはずなのに、私はそのどれも得ることが出来ない。どの管にも繋がれていないから。
「みんなでいるのに孤独だって思うと、いっそ広い場所で一人になりたくなる。それなら孤独じゃなくて自由だと思えるから」
 同じ学校に通う私がどうしても入れない輪に、他校の子が入ることが出来ているのも正直羨ましかった。
「ここに来るのも、ヒロちゃんと連絡取り合ってる子が、来たほうが良かったんだろうなって思ってた」
 私でごめん。と言うと、ヒロちゃんは首を振った。
「そんなことないよ。私は翠ちゃんに来てもらえて嬉しい」
 理解してくれた人も初めてだし。と言う声は、さざ波のようだった。

 翌日は昼から海水浴だった。
 
 ヒロちゃんの泳ぎはやっぱり上手かった。黒いラッシュガードにつるりと光が滑り、糸が布を縫うように海を泳ぐ姿は、一瞬海の動物かと思う程だった。
 ただその様子は、体にまとわりつく何かを波で拭っているようにも見えた。

 休憩時間。私とヒロちゃんは砂浜の後ろで芝生を背に座った。
 海の奥に見える本土はギザギザの山が連なり、まるで地平線のすぐ上で空が破られたようだった。
 男子達が休憩せずに波打ち際で騒いでいる。大地はやはりリーダー気質なのか、ここでもみんなの中心だ。
 その様子を眺めていたヒロちゃんが、譫言のように呟いた。
「私ね、大地くんに写真送っちゃったの、下着の」
「え?」と思わず声を上げた。慌てて近くに人がいないことを確認する。
「私、大地くんと付き合ってて。初めてで嬉しかったの。最初は顔写真とかだったんだけど、だんだんそういうのも要求されるようになって」
 大地のはしゃぐ声が聞こえてきて、反射的に鳥肌が立つ。
「あの子も大地くんの彼女だってね」
 そういってヒロちゃんが指したのは、うちのメンバーの女子。
 知らない。だってそれは管を通して伝わる情報のはずだから。
「問い詰めたら、誰にも言わないでね。俺は写真持ってるんだよ?って言われて」
 ぎゅっと膝を抱えて小さくなった姿を見て、彼女を覆っていたのは後悔だったのだと気づく。
「大地くんのスマホにある写真、消せないかな」
 こんなこと誰にも言えなくて。と力無く零れたその言葉は、私の中の乾いてしまった部分に染み込む。
 張り巡らされたどの管も通らず目の前で落とされたそれを、砂浜で蒸発してしまわないうちに私は受け取った。

 休憩の後、私は隙を見て大地のスマホを鞄から抜き取り、海に水没させた。

***

 バレるかもしれない。
 スマホが発見されて騒ぎになる様子を、二人で遠巻きに見ながら思った。
 そもそもスマホは校則違反だろ。と叱る先生の声が聞こえる。
 「ちゃんと壊れたみたいだね」
その言葉の僅かな安心感に縋ろうとした時、一人の生徒が恐る恐るといった感じに手を挙げたのが見えた。何を言っているのかは聞こえないが、次の瞬間みんなが一斉にこちらを向いた。
 心臓が跳ねる。
 やばい。と掠れた声が漏れた時、後ろでヒロちゃんがそっと私の手を握った。
「天地がひっくり返って、みんな空に落ちて溺れればいいのに」
 炭酸のペットボトルを開けたみたいに、一瞬、軽く頭に血が上った。実行犯は私なんだ。そう思い、つい言ってしまった。
「ヒロちゃんは泳げるけど、私はみんなと溺れちゃう」
 翠ちゃんは私が助けるよ。と、凛とした声が聞こえた。 
「悪用されるかもしれなかった写真は翠ちゃんが消してくれた。でもされた事の証拠はある。だから事実は消えない。私が隠さなければ」
 先生達がこっちに来る。
 「やれって言われたって言ってね」
 そっと微笑んで言うと、握っていた手を離した。
 その瞬間、ヒロちゃんはシーグラスのような青空に飛び込んだのだと思った。

 天地を、ひっくり返すために。

深夜零時のチル食堂 

(著者)佐竹扇壽

 時計を確認してラヂオの周波数をあわせる。
 今のわたしの楽しみ。それは…。

 深夜零時の時報と共に、初老男性の落ち着いた声がスピーカーから流れてきた。

            **
 深夜零時のチル食堂。
 タイムテーブルにものらない、秘密のラヂオ食堂。
 気づいた方は、ちょっと幸せ。
 聞いていただければ、コウフクいっぱいユメいっぱい。

 今宵も正味三分、目を閉じて令和にレトロにお付き合いいただければ幸いです。
 さて、本日のメニューは…。

 ――
 琥珀色のスープ。昔ながらのチャーシューメンマにネギ、なると。丼ぶり淵には 海苔二枚。
 まず、レンゲで盛付を崩さないように熱々スープをひとすすり。

 煮干しのニオイとかえしの塩味。それをまろやか、脂の旨味が全てを包み込む。
 あったかスープが食道から胃に。
 鼻腔と口内にはスープの余韻。

 次に盛付を崩し、麺へ。
 ーこの時、チャーシューと海苔はスープに浸しておくー

 ズルズルズルゥ~~。
 ハフハフ、ハ~。
 スープをまとった、熱々極細ちぢれ麺。噛むごとに小麦の風味。
 ここでまだ麺が口にいるタイミングで、チャーシューにかぶりついては、レンゲでスープも流し込む。
 口の中は、麺、麺、チャーシュー。
 それをスープでコーティング。

 次にお冷を一口含んで、湯気がほんわか白メシへ。
 先にスープで浸した海苔を白メシにのせてかっ込む。
 磯の香りの隙間から、スープの旨味がジワジワジワ~。

 これだけで白メシのおかずに。
 さらにここでもチャーシューにかぶりついては、スープをすする。
 同じ炭水化物でも麺とは違った幸せが口内に広がる。

 この後は、麺、麺、スープ、スープ。お冷を挟んで白メシ、チャーシュー、メン マになると。
 そして…。
 満腹感と満足感を大いに感じて『ごちそうさまでした』。

 ――
 みなさん、今宵のメニューは、もうお分かりラーメンライス。
 設定は、私のふるさと、新潟あっさり醤油のお店。
 ラーメンどんぶりの脇には、新潟特産、プックリふっくらコシヒカリ。
 先日、新潟市のラーメン外食消費額が、全国一位というニュースを耳にし、喜びの気持ちで選ばせていただきました。
 リスナーの中には、新潟でラーメン?とお思いになる方もいらっしゃると思います。が、そんな方ほど是非一度新潟ラーメンをご賞味ください。
 本日の新潟あっさり醤油の他に、濃厚味噌や長岡生姜醤油などの新潟五大ラーメン。
 この他、様々なバリエーションも多数。
 どれも味はもちろん、そのレベルの高さにきっと驚嘆されること間違いありません。

 深夜零時、口福を届けるチル食堂。そろそろお時間のようです。また次回の放送をご期待ください。

 ザァァァァァ~
            **

 ラヂオが終わると、口の中は口福で潤っていた。それをゴクリと飲み込み、この時間帯にラーメンライスを食したい願望(ユメ)と対峙するわたしがいた。
語るだけ語って、サッパリ終わるイケズなラヂオ。でも、そんなチル食堂が今のわたしの小さな楽しみ。
 ー今週末は新潟に行ってみようかな。―

シンボル

(著者)山村麻紀

「いい人生らった」と言い残し、じいさんが死んだ。隣のばあさんが畑仕事をする中、おんぼろの家で、安らかに息を引き取った。
 じいさんは、孤児の私を引き取り、四十五のくたびれた中年になる今まで面倒をみてくれた。じいさんの命が長くないと知ったとき、頭に浮かんだのが、じいさんのワイフだった。
「俺のワイフは良い女だったっけのう」
 仏壇には、水玉のワンピースを着たソバージュとえくぼがよく似合う美人が飾られている。じいさんのワイフは結婚して三年後、交通事故で亡くなった。二十五歳だった。じいさんは再婚せず、同居していた両親が他界して間もなく、私を養子として受け入れた。
 私はじいさんのワイフを見つけるため、結婚相談所に向かった。相談所に行くと、痩せたスーツの男が私を迎えた。プロフィールシートには、「二十五歳希望」と書き、男に「こんな女性と出会いたい」とじいさんのワイフの写真を見せた。
「今どき二十歳差なんて当たり前です。大丈夫ですよ。必ず素敵な女性を紹介します」
 三日後、男から紹介の電話が掛かってきた。
「いいお嬢さんがいましたよ。二十五歳で美人さんです。早速デートのお手配をしますね」
 ワイフ候補との待ち合わせは、万代のバスセンターだった。きょろきょろする私に、白いコットンワンピースを着た女性が話しかけてきた。
「山田さんですよね?初めまして」
 顔を見て驚いた。女性は、じいさんのワイフと瓜二つの顔をしていたのだ。慌てて会釈した後、近くの喫茶店に入った。
「もうすぐなくなるんですよね。レインボータワー。残念です」
 着席するなり、女は言った。
「シンボルがなくなるって、悲しいですよね」
 彼女は、遠くの何かを見つめて呟いた。
「私は、おととい結婚相談所に登録しました。理由は、寂しいからです。男手一人で育ててくれた父が、先月急性白血病で亡くなったんです。私には兄弟もなく、父しかいませんでした。だから、だから」
 大粒の涙が女の目から落ちた。私は慌てて言葉を挟んだ。
「正直に言います。私は誰とも結婚したいと思っていません。私が探しているのは、育ての父であるじいさんの、亡くなったワイフです。あなたのお父さんと同じく、私の父はもうすぐ天国に逝ってしまう。その前に、嘘でもいいから会わせてやりたいんです」
 私が言うと、女は大きく頷いた。
「とてもいいアイディアだわ。私がおじいさまのワイフになりましょう」
 翌週の日曜、ソバージュヘアになった女が家にやって来た。
「ただいまぁ」
「あぁ、おかえりなさい」
 私が言うと、女が手を振る。じいさんを横目で見ると、何度も目をこすっている。
「あら、あなたどうしたのよ。花粉症?」
 じいさんは、首を激しく左右に動かした。
「おかえりやぁ、マイワイフ」
 その日から、私とじいさんと偽ワイフとの生活が始まった。
「おぉ、ワイフの作った里芋の煮っころがしは最高だ。うまいうまい。なぁ?」
「あぁ、うん」
 生返事する私の横で、女が頬を緩める。思わずうっとりと見惚れるほどの美しさだった。
「あなたは、昔っからこれ好きだものね」
 女は、私が渡したワイフ情報をすべて記憶していた。所作も完璧に再現している。
「ワイフや、茶をくれ」
 ワイフを呼ぶじいさんは、誰よりも幸せに見えた。日ごとに食は細くなっていったものの、血色は良く、表情はまぶしかった。
「あなたは、おじいさんが亡くなってから、どうするつもりなの?」
 近所のファミレスで、女が私に問いかけた。
「何も考えていないよ。今はじいさんに最高の最期を贈ってあげること以外考えられない」
 女は、苦笑してうつむいた。
「おじいさんの本当の幸せって、何なのかしらね」

 じいさんが死んで一週間が経った頃、家のちゃぶ台に封筒が上がっていた。
 封筒には付箋があり、何か書かれている。
「結婚相談所に来た、おじいさんから預かったものです。黙っていてごめんなさい。」
 封筒の中には、メモの切れ端と、私が結婚相談所に払った十倍以上の金が入っていた。
「息子を頼みます。あの子の幸せが、私の一番の幸せなんです」
 震えていたが、間違いなくじいさんの字だった。私はメモを握り、ひたすら走った。しかし、どこまで行っても、シンボルは見つからない気がした。あるいは、はじめから存在しなかったのかもしれない。
 戻らぬ時間だけが、宙にぷかぷかと浮かんだ。

なめらかな、愛

(著者)山村麻紀

 私の部屋の本棚から、日に日に本が消えてゆく。本にかじられた様子がないことから、屋根裏のねずみの犯行ではないと悟る。
『ねぇ、私の本知らないよね?』
 寝そべって尻を掻き、テレビを見ているタツヤのだらしない背中に問う。
『あぁ、食べたよ。君の本棚にある本、美味しいからさ』
 やはりと思った。出会った半年前と比べて、タツヤは倍くらいの大きさになっている。本でも食べなければ、こんなに短期間で太ることはないはずだ。先日タツヤとデートで行ったマリンピア日本海で、そっくりな生き物を見た。あれはイルカじゃなくて、ペンギンじゃなくて、アザラシでもなくて、何だっただろう。
『ねぇ、どうして私の作った料理はちっとも食べないのに、本を食べるのよ?』 
 強い調子で言ったにもかかわらず、タツヤは振り返りもせずに答える。
『料理なんてファミレスでも居酒屋でも食べられるよ』 
 返答の意味がわからず、頭にきた私は、タツヤの背中に思いきり蹴りを入れた。
『この本泥棒!このトドまがい!本を返しなさいよ!』 
 タツヤは驚いて、なめらかに身体をスライドさせた。
『君ほど美味しい本をくれる人はいなかった。でも、その魅力に気付けなかった君とはさよならだ』 
 タツヤの手足はヒレに変化し、手を振ってそのまま部屋から消えてしまった。ふと本棚に目をやると、消えた本がすべて元に戻っていた。ただ、全ページがしわしわになっていて、潮の香りがした。
 使い物にならないので、全部水に流すつもりだ。

8月1日 

(著者)月の砂漠

 平日朝の通勤ラッシュ時には、立錐の余地もないほど大混雑する信越本線だが、さすがに日曜の終電間際ともなると、乗客の数はさほど多くない。
 俺は四人掛けのボックス席に座り、背もたれに深く体を預けていた。今日は休日だというのに、仕事に駆り出されてしまった。日中は猛暑だったこともあり、すっかり疲労困憊の有り様だ。
 俺は見るともなしに窓の外を眺めていた。山と田畑ばかりの緑一色から、徐々に建物が増えてくる。俺の家がある長岡駅まで、あともう少しだ。俺は、帰宅後すぐに浸かる予定の熱い風呂を想像していた。
 その時だった。
 突然、車内の電気が消えた。あたりが漆黒に包まれる。電車は速度を落としながら停止した。
「送電線の異常が確認されましたので、一時停車します」
 車内アナウンスを聞いて、俺は溜息をついた。長岡駅まであと数分で到着だったのに、ついていない。
 何気なく、車両内をぐるりと見回す。暗くてよく見えないが、いつの間にか、乗客は俺一人になっていた。闇の中に一人という状況は、決して気持ちの良いものでもない。そわそわしながら復旧を待っていると、ふと、窓越しに声が聞こえてきた。
「助けてぇ、助けてぇ!」
 俺は慌てて窓の外を見た。だが、人の姿はない。気のせいかと思ったが、すぐに、また違う音が聞こえてきた。
「ゴォォォ……ゴォォォ……」
 それは、飛行機の音だった。何機もの飛行機が頭上を飛び回っているような音だ。
 こんな夜に、なぜ飛行機が?
 戸惑っていると、音がさらに重なった。今度は、耳をつんざくような轟音だった。
「ドォォォン……ドォォォン!」
 それは、爆発音だとしか思えないような激しい音だった。
 俺は再度、周囲を見回した。そして、思わず悲鳴を上げてしまった。
 車内に、たくさんの人が倒れていたのだ。
 そんな馬鹿な。ついさっきまで、この車両には俺一人しかいなかった。この倒れている人たちは、どこから現れたのか。
 俺は恐怖を懸命にこらえながら、一番近くに倒れていた人に近寄った。
 その人の顔は、黒焦げだった。
 俺は息を飲んだ。とても生きているようには見えなかった。苦痛に歪んだ表情で、じっと虚空をにらんでいた。
 俺は倒れている人々を次から次へと調べていった。
 全員、死んでいた。全員、黒焦げだった。
 パニック状態に陥った俺の耳に、人間の声がまた流れ込んできた。
「死にたくない、助けて、お父ちゃーん!」
「逃げて、早く逃げてー!」
 それは、聞こえるというより、直接、頭の中に突き刺さってくるような声だった。
次の瞬間。俺の目の前に何かが落下した。俺はまばゆい閃光に包まれながら、全身がバラバラに弾け飛んでいた。
「次は、長岡駅。長岡駅です」
 穏やかな車内アナウンスで、ハッと我に還った。心臓が早鐘を打ったように鳴り響いている。汗びっしょりだった。だが、俺は生きている。体は砕け散っていないし、車内に黒焦げの死体など一つもない。いつもどおりの信越本線の車内だった。
 夢だったのか。疲れて、悪夢にうなされていただけなのか。それにしては、あまりにもリアルな夢だった。
 帰宅してからも、先程の悪夢のことが頭から離れなかった。俺はスマートフォンを片手に、ネットであれこれと検索してみた。
「新潟」「長岡」「爆弾」「空襲」「焼死体」
 そんな言葉を検索エンジンに入力していたら、やがて、あるサイトに辿り着いた。
 そのサイトは、太平洋戦争末期、長岡市で大規模な空襲があり、千人以上の死者が出たという不幸な歴史を伝えていた。
 その空襲の日は、8月1日。
 今日と同じ日付だった。
 俺は確信した。俺が先程見たのは、夢ではない。過去だ。昭和20年8月1日の夜の、地獄のような現実の光景だ。
 俺はスマートフォンを机に置き、目を閉じて、そっと祈りを捧げた。
 名前も知らない、たくさんの戦没者たちの冥福を、ただただ、祈り続けていた。

【了】

冬の冒険

(著者)渡辺ヒラオ

 三郎は冒険好きである。好奇心は強く何でもやって見なければ気がすまない中学2年生だ。それはある冬の日のことだった。3学期の始業式も終わって寄り道をした同級生のKと自宅の火鉢で餅を焼いていた。テレビでは昼のニュースで南極観測船「ふじ」が越冬隊を乗せて南極へ向けて出港する様子を伝えていた。餅を頬張りながら三郎はKに「よし、たかぶへ行こう」と不意に言った。たかぶとは家から3キロほど離れた溜池で、春から夏そして秋にかけて友人らと魚釣りやボート遊びを楽しむ場所であった。なぜたかぶへ行こうと言ったのか。三郎は薄氷が張っているだろうその池を南氷洋に見立て、そこを氷を打ち砕きながら進む観測船よろしくそれを真似てみたくなったのである。
 二人は自転車に乗り20分ほど走ると、舗装された県道から雪の残った田んぼ道に入り池に着いた。池には予想通り薄氷が張っていた。雪は止んでいたが朝は冷えていたから湖面は凍ったのだろう。空は晴れている。池の岸に放置してあるボートのそばには薄い氷を通して水草が日を浴びながらゆらゆらと揺れている。ボートは右側のヘリ板が朽ちて剥がれていたが、二人が乗るには大丈夫だろうと思った。左側に体を寄せて重心を少し移動すれば支障が無く進めると思ったのである。オール替わりの竹竿で水を掻きながら観測船に乗った気分で漕ぎ出した。空は晴れているが風は冷たい。2時間ほど池の中をぐるぐる回った。池の周囲は1キロ余りだが所々入江のように食い込んだ場所があり、そこを港に見立てると「ただいま〇〇港を出港でありまーす」などと言いながら悦に浸っていた。
 突然予期せぬことが起こった。朽ちたヘリ板を超え水が入って来るではないか。慌てた二人は重心を取り戻そう反対側に身を寄せたが、かえって一気に水が入ってきてボートの中は水で一杯になった。Kが「わーっ、沈む!」と叫んだ。次の瞬間気づくと二人とも必死に犬かきをしている、。泳ぎは得意ではなかったが冬の厚着のためクロールなんかとてもできたところではない。長靴も邪魔になったから足を振って脱ぎ捨てた。三郎は15メートル位離れた岸までなんとか辿り着くことができた。後ろを振り返るとKはまだ10メートル位の所で必死に喘いでいる。三郎はKに向かって「がんばられよ、おまえは陸上部じゃないか」と叫んだ。泳ぎと陸上部とはまったく関係のないことだが、とにかくグランドで汗を流したK
の姿を見ていたので三郎は必死に叫んだのである。Kがなんとか岸に辿り着くと震えた声で互いの健闘を讃えあった。水温は零度近いはずで普通なら心臓麻痺を起こしても不思議ではなかったが、寒風の中3時間ほどいたせいで身体が慣れていたのかも知れない。
 自転車を引きずりながら裸足で夕暮れの田んぼ道をトボトボと歩く。顔は泳いだ時薄氷で少し切ったから余計に寒風が染みてきた。300メートルほど離れた県道沿いの駄菓子屋まで辿り着くと、事の次第を告げストーブに当たらせてもらった。初老の夫婦で店は営んでいたが店主の夫が近くの農協に電話をかけて、二人とも家まで送ってもらった。家に帰り三郎の母と姉がこの顛末を聞くと随分と呆れた様子だったが、それでも風呂を沸かしてくれた。凍え切った三郎の体はぬるま湯から入ると、水温が上がるにつれようやく生きた心地を取り戻したのである。
 三郎は翌日父と一緒に駄菓子屋まで自転車を取りに行った。父は「もうあんな危ないことはするな。でも二人とも助かってよかった、いい経験をしたな」と言った。三郎は生まれ付体は弱く体を鍛えようと、小学生の時海軍上がりの父から海で特訓を受けたことがある。その時海水をいっぱい飲んで肺炎になりかけたが、掛かりつけの医者から「なんでこんなになるまでさせたんだ」とこっぴどく怒られる父の姿を覚えているから、いい経験をしたなと言われた時なんだか褒められたような気がした。三郎は高校ではサッカー部に入り持久力が付いて、マラソン大会で前年優勝した先輩を練習のロードレースで抜いたほどであった。
 高校を出ると三郎はコックになったが、持ち前の好奇心が付いてまわり以後半世紀近く芸人と料理人の二足の草鞋を履くことになる。妻とは共に晩婚だったがすぐに二人の息子を授かった。長男はこの春結婚して家庭を持った。もう人生の第3ピリオドに入っても彼は相変わらずパッとしないが、好奇心だけは失うことなく極めて楽観主義で未来を明るくしているのだろう。若い頃東京で役者を目指して頑張った時期もあったが、三郎にとって故郷新潟はやはり人生のついのステージでなのである。遠い日の想い出を振り返る時、豊かな四季の移ろいを肌いっぱいに感じながら、この地に生まれて本当によかったと思っている。年を重ねるたびにその思いは強くなるばかりである。ここ10年ほどの彼のモットーは「今日という日は残りの人生の最初の一日である」。年は取っても今日という日を新鮮な気持ちで迎えることのできる、ふるさとバンザイ新潟バンザイと心の中で呟きながら。

スペシャルなイルカショー 

(著者)せとやまゆう

 新潟にある水族館。今はイルカショーの時間。たくさんの観客で賑わっている。僕の隣には、好きな女の子。イルカがジャンプする。ザッパーン。水しぶきが上がって、涼しい。
「手つながなくて、いいの?」
 ジャンプしながら、イルカが話しかけてくる。1人だけに、聞こえる周波数で・・・。黙ったまま、僕は首を縦に振る。
「まだ、付き合ってないパターンか。告白は?」
「今日、しようと思ってる」
 僕は、小声で答える。
「今しちゃえば?これから、大回転を決めるから」
 高く飛んで、クルクルクルクルクルー。五回転して、ザッパーン。大きな水しぶきが上がる。
「きゃー、すごいね!」
 キラキラした女の子の笑顔。せっかく、イルカが背中を押してくれたんだ。僕も男を見せないと・・・。
「好きです。付き合ってください」
 真剣な顔で、僕は言った。驚いた表情の女の子。ついに、言ってしまった。僕の鼓動は速くなった。

「はい、お疲れ様でした。ゴーグルを回収しますね」
 スタッフの声とともに、周囲の観客が姿を消した。隣に座っていたはずの、女の子も。水槽の中では、イルカが静かに泳いでいる。
「かわいかったでしょう。たくさん話せましたか?」
「はい、ありがとうございました!」
 ああ、ドキドキした。ドキドキしたら、お腹が空いてきた。レストランに移動し、僕はわっぱ飯を食べた。薄い塩味のご飯の上に、鮭といくらがたっぷり。追加で、メギスの唐揚げをオーダー。心もお腹も満たされた。

 帰りながら、僕はチケットの半券を取り出す。
《開館前 貸し切りイルカショー!》
 どうして、こんなチケットを持っていたかというと・・・。幸運なことに、抽選で当たったからだ。余韻に浸っていて、気付いた。半券に書いてある文章。
《もう一度、ご利用いただけます。ぜひ、ペアでお越しください!》
 なんて、太っ腹なんだろう・・・。嬉しい、嬉し過ぎる。振り返って、僕はお辞儀をした。また、必ず来ます。
「よしっ!」
 勇気を出して、あの子を誘うぞ。

オンラインぽっぽ焼き 

(著者)せとやまゆう

 医師がアプリケーションを開いて、患者のデバイスに接続。
「こんにちは。はじめまして」
「こんにちは。よろしくお願いします」
 声が聞こえるけれど、画面には誰も映っていない。ぽっぽ焼きだけが、宙に浮いている。
「あれ、お姿が見えないですね。画面の前に、来ていただけますか」
「実は、昨日の朝から透明人間になってしまいまして・・・」
 ぽっぽ焼きはゆっくり降下し、平皿の上へ。
「はあ、そうでしたか・・・。失礼しました。私はこういう者です」
 医師は医師資格証を提示した。患者は健康保険被保険者証を提示した。
「会社には電話して、体調不良ということで休みをもらっています。このまま透明人間のままだと、車にひかれたり、人にぶつかられたりするでしょう。怖くて外に出られません。家にいても、すぐに家族とぶつかってしまいます。どうか、元に戻してください」
「しかし、私は専門ではないんですよね・・・」
 医師は顎に手を当てて、しばらく考えた。

「フィクションの世界では、透明人間がいたずらをしようとする。すると、元の姿に戻ってしまう。これは、よくあるパターンですよね」
「はい」
「あなたは透明人間になってから、何かいたずらを考えましたか?」
「いいえ、そんな余裕ありませんでした」
「では、試しに考えてみましょうか」
 医師は、左手の人差し指を立てた。
「えっ、でもどんな?」
「そうですね・・・。《小学生男子が考えそうなこと》なんて、どうでしょう」
「ああ、なるほど。はいはい」

「想像できましたか?」
「はい」
「おっ、だんだん輪郭が見えてきましたよ。おお、もうお顔がはっきり見えます」
「本当ですか?」
 患者は画面からフレームアウトした。どうやら、姿見がある位置へ移動したようだ。
「おお、本当だ。戻っている!」
「よかったですね。はっはっは。また、症状が現れることも考えられます。近いうちに、対面で受診されることをお勧めします。お大事になさってください」
 医師は胸を撫でおろした。
「はい、わかりました。ありがとうございました!」
「ちなみに・・・。どんなことを想像したんですか?」
「えっと、それは秘密です。はっはっは」