ルイおばさんのふしぎなカフェ

(著者)銀の猫

 そのカフェは美人林の奥深く誰もたどり着けない隠された場所にあります。
 年月を重ねたログハウスで入り口にはかわいらしい看板がたててありました。
「 RUI‘s Café(ルイズ カフェ)」。
 ルイおばさんは、毎日林の中でゆっくり本を読んだり動物たちと遊んだりしています。
 イサムおじさんから連絡のあるときだけ店を開けるのです。
 今日、イサムおじさんから連絡がありました。
「本日のお客様は女性一人」
「はい。喜んで」とルイおばさん。さっそく支度に入ります。
 お客様は何をお好みかしら。コーヒー?紅茶?ミルクも必要ね。ジュースも。そうそう、大事な「お水」を用意しないと。
 そう言ってルイおばさんは林の中に入っていきました。
 しばらくして、お客様がお店の前にたたずみ、扉を開けました。
「カラン・コロン」扉を開ける音がします。そうして女性が一人入ってきました。
「美人林に行きなさいと声が響いて、気が付いたらいつの間にかここに…」女性はとても不安そうです。
「いらっしゃいませ。おまちしていました」とルイおばさん。
「どうぞここへ。お飲み物は何になさいますか?」
「コーヒーを下さい」
「かしこまりました」
その女性はどこかに心を置いてきたようにひっそりと座っていました。
「コーヒーをどうぞ。あなたの心にしみますように」そう言ってルイおばさんはコーヒーを出しました。
何も言わずにコーヒーを一口飲んだ女性は…
「私は悲しくて仕方がありません。一年ほど前に愛する子供を二人、事故で亡くしました。私がもう少し気をつけていれば、私が代わりになっていれば、と毎日毎日悔やんでいます」と告白し始めました。
 実はルイおばさんの飲み物には秘密があり、林の中の清らかな水を使って作られていました。この水は飲んだ人に特別な作用が出ます。
 女性の両目から涙があふれ、テーブルの上に落ちたそのとき、
「かちん」と音がしました。涙が真珠になっていたのです。女性は驚きました。
「あら、真珠だわね。真珠の意味は“苦しみから生まれる美”なのよ。きっとお子さんたちはお母さんに悲しい顔をさせてしまっていることが心残りなのかもしれないわね。“私たちのこと忘れない為にも生きて”って真珠から聞こえてくるのだけれど」
 女性は更に涙を流しました。しかし、今度は真珠にはなりませんでした。そのかわり、女性の心が戻ってきたように感じられました。
 ルイおばさんは言います。
「この真珠、一つはお代としてもらいます。もう一つは思い出せるようにあなたが持っていてください」
 女性はうなずくのがやっとでした。そして女性は去っていきました。安心したのと感謝の気持ちとが入り混じった感動の涙を流しながら。
「ありがとうございました」ルイおばさんはほっと一息椅子に座りました。
「カラン・コロン」誰かが入ってきます。
「おや、今日のお客様はお一人のはずだけど」子供が二人。男の子と女の子です。
「僕たちずいぶん前から道に迷っていて気がついたらここいいたの」
ルイおばさんは言いました。
「ココアを作ってあげるからこちらにいらっしゃい」
 ちょこんと座った二人に温かいココアを出しました。二人は温かいココアを一口飲みました。すると...
 二人の体に淡い光がまとわりつきました。ふしぎに思っていると、
「僕たちのママが悲しんでばかりで何もできなくなったから心配で心配で」
 ルイおばさんはつい今しがた手に入れた真珠を男の子と女の子の重ねた手のひらにのせました。ふしぎなことに、真珠から優しい光が輝いて男の子と女の子の体の中に入っていきます。
「おばさん、ありがとう。ママは元気になったんだね」淡い光が強い光へと変わり、まばゆい光の中で男の子が言いました。
「ありがとう。やっと行ける」女の子のバイバイの手を最後に二人の体は優しい光となり美人林のブナの木にまとわりついて上へ。青い空の向こうにすうっと消えていきました。後には真珠だけが残りました。ルイおばさんは真珠を透明の小瓶に入れながらこう言いました。
「イサムおじさんに言っておかないと。たまに予定外のお客様も来るわよって」そういってお店の扉を閉めました。
 ルイおばさんのカフェ。美人林の中にありながら、誰もその場所を知りません。